「DNAでたどる日本人10万年の旅」は、日本列島が世界的にみてとても貴重な、不思議な地域であることを教えてくれる本です。
この記事では「DNAでたどる日本人10万年の旅」のエッセンスをまとめてご紹介します。
要約
一言でまとめると
日本列島が世界的にみてとても貴重な、不思議な地域であることを教えてくれる本
大事なポイント
Y染色体による遺伝子解析
本書ではY染色体の遺伝子解析により人類の移動の歴史を読み解く。
ヒトの男性はY染色体とX染色体を1つずつ、女性はX染色体を2つ持っている。
つまりY染色体は男性のみが持ち、女性は持たない。
遺伝子解析には父系遺伝するY染色体DNAと、母系遺伝するミトコンドリアDNAの二種類の解析対象がある。
本書では専らY染色体DNA解析について述べている。
Y染色体のグループわけ
Y染色体は大きく分けてA、B、C、DE、FRと5つの系統に分けられる(※本書2008年初版の記載に基づく。以下同様)。
アフリカで現生人類が誕生した後、アフリカにとどまったのがA系統とB系統である。
残りの3つの系統、C型、DE系統、FR系統は、アフリカを出たグループである。
この出アフリカ3大グループの末裔たちが全世界に広がっていった結果、現在の全世界的なヒト集団の分布につながっている。
出アフリカ3大グループの再開の地、日本
日本列島におけるY染色体分布の特徴は、筆頭となるD系統の存在だけにとどまらず、出アフリカの3系統のそれぞれに由来するグループ、つまりC系統、DE系統及びN系統が今でも共存していることが全世界的に見て非常に珍しい状況を生んでいる。
ヨーロッパは非常にDNA対応性が高い地域ではあるが、それでも出アフリカのグループは2系統しか見られない。
パプアニューギニア、アメリカ先住民、シベリア、インド、中国、その他ほとんどの地域が、やはり出アフリカの2系統までしか見出せない。
なぜ日本列島には遠く隔たったヒト集団が歴史的に消滅せず今でも存続してきたのか、あるいは存続することができたのかは、非常に興味を引く現象である。
それがどのような意味を持つのか、それを考えるのが本書の課題である。
日本列島におけるDNA多様性維持の諸条件
- 気候が温暖で降雨量が多く、豊かな植物相がある
- プランクトンの豊かな海に囲まれ、蛋白源となる魚がとれる
- 豊かな環境のおかげで、日本列島に居住するヒト同士の争いが少なかった
- 他地域から日本列島へのヒト集団の移動が、小規模で数回起こった
以上の4条件が日本列島にあったおかげで、ユーラシア大陸において敗者となり住処を追われたヒトたちが生き延びることができたのではと著者は指摘する。
アイヌ・日本・琉球は異なる文化・言語を持つ
琉球におけるDNA分布は、日本列島中間後の九州・四国・本州との関わりはあるものの、独自の性質を考えるべきかもしれない。
とくに言語についていうと、アイヌ語の文法構造と日本語および琉球語のそれは全く異なるルーツを持つと推察される。
感想
ハッとしたこと
人種や国という括りで物事を見ていると、気づけないことがある。
「日本人」という言葉も、実は注意深く用いるべきなんじゃないか。
共感したこと
日本列島の特徴は弱者への優しさだった。
他の地域で住処を追われた人々が、逃げて逃げてたどり着いた先の日本列島に、やっと安住の地を見つけた。
そんなことが積み重なって、現代にも多様なDNAを残している。
読書後の課題
本書は主にY染色体に基づく研究成果なので、ミトコンドリアDNAからたどる人間や文化の移動についても知りたい。
ちなみに、遺伝子解析サービスを利用すると、自分がどんなミトコンドリアDNAを持っているかを調べることができます。
ユーグレナの「遺伝子解析キット」を使ってみた感想記事はこちらです。
関連記事:【ユーグレナ遺伝子解析やってみた】検査にかかった時間と感想まとめ
まとめ
日本列島は弱者に優しい場所だった。
だからこそ、世界的に見ても稀な、出アフリカ3大グループのDNAが現代に伝わる場所となっている。